不正登記防止(第三者による成りすまし登記の防止)

不正登記防止申出の制度(第三者による成りすまし登記の防止)

1 第三者による成りすまし登記の危険

 不動産の名義変更(登記手続き)は、不動産の所有者など、正当な権限のある本人(あるいはその代理人)が申請しなければなりません。

 しかし、過去、第三者が本人に成りすまし、本人に無断で登記の申請をする、といった事案が少なからずありました。全くの第三者による成りすましのほか、親子や兄弟による成りすましのケースもあります。

 例えば、2017年に発生したいわゆる積水ハウス地面師詐欺事件があります。大手不動産会社(買主)が、土地を購入する際、土地の所有者(売主)に成りすました者に対し、それを見抜けず、代金60億円余りを支払ってしまった、というものがあります。もっとも、このときは、法務局が売主の成りすましを見抜いたため、所有権移転登記(名義変更)はなされませんでした。

 他にも、過去、法務局が成りすましを見抜けず登記(名義変更)が完了してしまった、という事案も複数あります。

 なぜ、このような事が生じるかというと、法務局における登記申請の際の本人確認の方法としては、一般に、登記済証や登記識別情報(権利証)、申請書への実印押印、印鑑証明書などで、書面上、本人性(本人との同一性)を確認するにとどまります。登記官が本人と面談して本人確認する、といったことは原則しません。よって、これらが第三者によって盗まれたり巧妙に偽造されたりすると、成りすましを見抜くことが困難となります。

 司法書士が登記手続きに関与している場合は、これらの書類に加え、運転免許証などの書類も確認するとともに、本人との面談などによっても本人性を確認します。もっとも、書類を巧妙に偽造されたり、成りすました者がうまく受け答えができた場合、司法書士でも成りすましを見抜くことは困難といえます。

2 不正登記防止申出とは

 不正登記防止申出とは、成りすました者が本人に無断で登記申請をするおそれがある場合に、不正な登記がなされることを防止するため、事前に、法務局に申出をする制度です。

(1)不正登記防止申出の手続

   登記名義人(もしくはその相続人)は、当該不動産を管轄する法務局に出頭して申出をする必要があります。

   不正登記防止申出書には、登記名義人(もしくはその相続人)が実印を押印し、印鑑証明書を添付します。

   申出をするに至った経緯、申出が必要となった理由に対応する措置をとったことを申出書に記載します(下記※)。

  (※申出が必要となった理由に対応する措置とは、例えば、権利証、実印、印鑑証明書を盗まれた、といった場合は、警察署に相談し被害届を提出する、役所で登録した印鑑や印鑑カードの変更手続きをする、などが考えられます。)

(2)不正登記防止申出後の措置

   申出をした日から3か月以内に、この申出に関する登記申請(不正が疑われる登記申請)がなされたときは、速やかに、法務局から、申出をした者に対し、登記申請があったことが通知されます。

   また、法務局が、なされた登記申請について、不正な申請ではないか、と疑うときは、その登記申請人について、申請の権限があるのかどうかについての調査を行うこととされています。この調査が完了したことについても、法務局から、申出をした者に対し、通知されます。

   法務局の調査において本人性の確認ができない場合は、登記申請を受け付けない(却下する)、ということとなります。

3 まとめ

 以上のとおり、不正登記防止申出をしておけば、法務局での本人性の調査がより厳格になされることとなり、不正な登記を防止できる可能性が高くなります。

 不正登記防止についての具体的な手続きについては、司法書士等の専門家にご相談いただければと思います。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也