DV被害者の不動産登記手続き

DV(配偶者からの暴力)被害者が登記義務者や登記権利者となるときの手続き

1 DV被害者が登記義務者となる場合

 たとえば、DV被害者が土地や建物の登記名義人となっていて、その土地や建物を譲渡(売買、財産分与、贈与)し、法務局で、所有権移転の登記手続き(名義変更)をするとします。

 このとき、DV被害者の住所について、登記上記載されている住所と現在の住所(住民票記載の住所)が異なっている場合、現在の住所に変更するための住所変更登記手続きをしなければならないのが原則です。

 この点、不動産登記の証明書は誰でも法務局で取得できるので、もし、現在の住所を知られたくない人に不動産登記の証明書を取得されてしまうと、現在の住所を知られてしまう、ということになります。

 ただし、例外として、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)1条2項に定める被害者として、住民基本台帳事務における「支援措置(下記※)」を受けている場合、住所変更の登記手続きをする必要はない、とされています。

 この場合、現在の住所は登記されませんので、第三者に現在の住所を知られることを防止できる、ということになります。

 登記手続きとしては、登記上の住所から現在の住所に移ったことが分かる住民票や戸籍の附票に加え、役所から発行される「支援決定通知書」を添付して登記申請することになります。

 ※住民基本台帳事務における「支援措置」とは、配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為、児童虐待などの被害者の方について、市区町村役場に対して、DV等支援措置を申し出て、DV支援対象者となることにより、加害者からの「住民基本台帳の一部の写しの閲覧」、「住民票(除票を含む)の写し等の交付」、「戸籍の附票(除票を含む)の写しの交付」の請求・申出があっても、これを拒否する(発行しない)措置が講じられる、という制度です。

2 DV被害者が登記権利者となる場合

 たとえば、DV被害者が土地や建物を取得(売買、財産分与、贈与)し、法務局で、所有権移転の登記手続き(名義変更)をするとします。

 登記申請書には、DV被害者の現在の住所(住民票記載の住所)を記載しなければならないのが原則です。

 そうすると、DV被害者の現在の住所が登記されることになるので、上で説明したとおり、不動産登記の証明書は誰でも法務局で取得でき、もし、現在の住所を知られたくない人に不動産登記の証明書を取得されてしまうと、現在の住所を知られてしまう、ということになります。

 ただし、例外として、上で説明した「支援措置」を受けている場合、住民票に記載されている前住所または前々住所を、現在の住所の代わりに登記することができる、とされています。

 この場合、現在の住所ではなく、前住所または前々住所が登記されますので、第三者に現在の住所を知られることを防止できる、ということになります。

 登記手続きとしては、前住所または前々住所から現在の住所に移ったことが分かる住民票や戸籍の附票に加え、役所から発行される「支援決定通知書」、「上申書(印鑑証明書付)」を添付して登記申請することになります。

 「上申書」は、印鑑証明書を添付して、「住民票に現住所として記載されている住所地は、配偶者等からの暴力を避けるために設けた臨時的な緊急避難地であり、あくまで申請情報として提供した住所が生活の本拠である」旨を内容とします。

3 まとめ

 以上のとおり、現在の住所を知られないように登記手続きを行う方法はありますが、DV被害に関する手続きは慎重に行う必要がありますので、具体的な手続きについては、司法書士等の専門家にご相談いただいたほうがよいかと思われます。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也