和歌山の相続登記について(10)親と未成年子との遺産分割協議

親と未成年子との遺産分割協議

1.特別代理人の選任が必要なケースについて

 一般的に、相続人が複数いる場合、全相続人間で遺産分割協議をして、誰が財産を取得するのかを決め、相続登記手続きの際、全相続人が実印押印した遺産分割協議書と印鑑証明書を法務局に提出する必要があります。

 ただし、相続人の中に、親と未成年子のような親権関係にある者がいる場合に遺産分割協議をするには、未成年子のために特別代理人の選任という特別な手続きが必要になることがあります。

 すなわち、

 ①親権者である父または母とその未成年子との利益が相反する行為をする場合、未成年子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(民法826Ⅰ)

 ②親権者である父または母が数人の未成年子のために親権を行使して代理行為をする場合、その一人と他の子との利益が相反する行為をする場合には、その一方の未成年子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(民法826Ⅱ)

という決まりがあります。

 ①の例としては、夫婦と未成年の子が一人いる場合、あるいは、夫婦と未成年の子一人と成人した子がいる場合において、夫が死亡したため、夫名義の自宅マンションを妻名義に変更するために、妻と子(ら)と間で遺産分割協議をするときなどがあります。

 上記の場合、未成年子の特別代理人を選任する必要があります。

 ②の例としては、夫婦と未成年の子が二人以上いる場合、あるいは、夫婦と未成年の子二人以上と成人した子がいる場合において、夫が死亡したため、夫名義の自宅マンションを妻名義に変更するために、妻と子(ら)と間で遺産分割協議をするときなどがあります。

 上記の場合、複数の未成年子ごとに、別の特別代理人をそれぞれ選任する必要があります。

2.特別代理人の役割について

 特別代理人は、未成年子の利益ために未成年子に代わって法律行為をするという役割をもっています。

 なお、未成年子が複数いる場合、利益相反関係にない親権者が親権を行使できる未成年子を除き、未成年子ごとの利益を守るため、それぞれ別の特別代理人を選任する必要があります。

 家庭裁判所は、未成年子の利益を損なうような特別代理人の選任は認めません。

 後で述べますが、家庭裁判所に特別代理人の選任の申立てをする際、遺産分割協議書の案を提出することを求められ、遺産分割協議の内容が未成年子の利益を損なうことがないか審査されます。

 今回のように、死亡した夫名義の自宅マンションを妻名義にすることは、一見、子の利益を損なうように思えますが、妻つまり子の母が、その自宅マンションで未成年子を扶養しているという事情があれば、妻名義とすることは子の利益にもかなうと考えられ、裁判所で認められることが多いと思われます。

 特別代理人が選任されると、特別代理人は子に代わってこの利益を損なわないよう特別代理人が子に代わって遺産分割協議をし、遺産分割協議書に押印するなどします。

3.特別代理人の選任の申立手続き

 未成年子の住所地の家庭裁判所に特別代理人選任申立を行います。

 なお、申立の際、特別代理人の候補者として、利害関係のない親族や弁護士などの法律専門家を指名することも可能ですがその候補者が必ず選任されるとは限りません。候補者がいない場合は裁判所の判断で適任者が選任されます。

申立人:親権者など

申立先:未成年子の住所地の家庭裁判所

申立費用:収入印紙子1名につき800円+予納切手

必要書類:戸籍謄本、遺産分割協議書(案)、特別代理人候補者の戸籍謄本と住民票

申立後の流れ:申立書や必要書類の審査がなされ、事件関係人に対する照会などを行われた後、問題がなければ、申立後数か月程度で特別代理人が選任され、その旨の審判書が交付されます。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也