和歌山の相続登記について(6)遺言による名義変更について

遺言による名義変更について

1.遺言による名義変更における登記原因

 遺言による登記手続き(名義変更)において、登記原因としては「相続」「遺贈」が考えられます。登記原因が「相続」であるか「遺贈」であるかによって登記手続きが大きく異なります。

(1)だれが登記申請の手続きをしなければいけないか

「相続」の場合、他の相続人などの関与を要せず、もらった人だけで登記申請ができます(「単独申請」といいます。不登法63②)。

 一方、「遺贈」の場合、遺産をもらった人が他の相続人全員もしくは遺言執行者と共に登記申請しなければなりません(「共同申請」といいます。不登法60)。

 遺言執行者がいる場合には、もらった人と遺言執行者が共同して申請する方法、あるいは、もらった人とその他の相続人全員が共同して申請する方法、があります。

 遺言執行者がいない場合には、遺言執行者の選任を裁判所に申立てて、もらった人と遺言執行者が共同して申請するか、もらった人とその他の相続人全員が共同して申請することとなります。

 このように「遺贈」の場合、他の相続人や遺言執行者が登記手続きに協力してくれないと登記手続きができないため、他の相続人に対して登記手続き請求の訴えを起こしたり、裁判所に対して遺言執行者解任選任の申立をする、などと非常に手間がかかるおそれもでてきます。

(2)農地法の許可が必要か

 不動産の登記上の地目が田や畑などの農地となっている場合、登記手続きには農業委員会の許可書を添付しなければならないことがあります。

 「相続」の場合、農地法の許可は不要です。

 「遺贈」の場合、特定遺贈か包括遺贈かで結論が異なります。特定遺贈とは、遺言者が特定の財産を譲与することをいいます。包括遺贈とは、遺言者が財産の全部又は一定割合を譲与することをいいます。

 包括遺贈であれば、もらった人が相続人であっても相続人でなくても農地法の許可は不要です。

 特定遺贈の場合、もらった人が相続人であれば許可は不要ですが、相続人でないときは許可が必要となります。

2.「相続」か「遺贈」かの判断

  では、登記原因が「相続」や「遺贈」となるのはそれぞれどのような場合でしょうか。

(1)登記原因が「相続」の場合とは

 遺言の内容が、 相続人に「相続させる」というものであるときは登記原因は「相続」となります(最判平3・4・19)。

 遺言の内容が、相続人に「やる」「譲る」「まかせる」「つがせる」といったものであるときは、登記原因は「相続」となる場合が多いでしょう(遺言者の真意の探求にあたっては、いたずらに遺言書に使用された文字に拘泥すべきではない(大決昭5・4・14)。遺言者の真意を合理的に探求し、できるだけ適法有効なものとして解釈すべきである(最判昭30・5・10)。)。

(2)登記原因が「遺贈」の場合とは

 遺言の内容が、「遺贈する」というものであるときは、もらう人が相続人であってもなくても、登記原因は原則として「遺贈」となります。

 もっとも、ごく例外的なケースですが、相続人全員に対して包括遺贈する場合、登記原因は「相続」となります(昭和38・11・20・民甲3119・民事局長回答)。

 また、遺言の内容が、相続人以外の者に「相続させる(やる、譲る、まかせる、つがせる)」というものであるときは、登記原因は「遺贈」となります。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也